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大阪地方裁判所 昭和61年(行ウ)5号 判決

原告

日本赤十字社

右代表者社長

林敬三

右訴訟代理人弁護士

森恕

鶴田正信

被告

大阪府地方労働委員会

右代表者会長

寺浦英太郎

右訴訟代理人弁護士

山口伸六

右指定代理人

先川進

辻村雅仁

被告補助参加人

大阪赤十字病院労働組合

右代表者執行委員長

吉田一江

右訴訟代理人弁護士

大川真郎

津留崎直美

岩嶋修治

空野佳弘

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は全部原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

一 被告が、大阪府地方労働委員会昭和六〇年(不)第二六号不当労働行為救済申立事件について、昭和六一年一月一〇日付けでした不当労働行為救済命令(以下「本件命令」という。)を取り消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、被告補助参加人(以下「組合」という。)の申立により、大阪赤十字病院(以下「病院」という。)を名宛人とする別紙命令書記載の本件命令を発し、右命令書は昭和六一年一月一〇日病院に交付された。

2  病院は、原告の経営する医療施設の一つにすぎず、独立の法人格を有しない。従って、本件命令は、実質的には、原告に対する命令であるから、原告は、本件命令の取消を求める原告適格を有する。

3  本件命令には、次のとおり、これを取り消すべき違法事由がある。

(一) 理由不備・理由齟齬

(1) 本件命令は「申立人(組合)が昭和六〇年三月九日付け文書で行った団体交渉申入れについて、団体交渉を拒否してはならない」と、命令している。ところで、組合の同日付け「団体交渉の申入れについて」と題する書面には、議題として、「三月九日付要求書項目および未解決要求の継続議題」が掲げられている。そして、組合が同日付けで提出した文書には、八五春闘要求書のほかに全日赤一九八五年春闘統一要求書、統一要求書及び「医療と生活を守るための協力・共同についての申し入れ」と題する書面(以下「協力共同申入書」という。)がある。そうすると、本件命令の命じる「昭和六〇年三月九日付け文書」に基づく団体交渉の対象に右三通の要求書、協力共同申入書、未解決議題が含まれるか否か不明確であるし、含まれるとすれば、本件命令は、八五春闘要求書及三月二九日付け職場要求書(以下「三・二九職場要求書」という。)以外の文書について理由中で触れておらず、理由不備・理由齟齬の違法がある。

(2) 本件命令は、組合の「要求項目の一部が団体交渉になじまないことを口実として団体交渉全体を拒否してはならない。」という請求を棄却しているが、その理由について何ら具体的に述べていないので、理由不備・理由齟齬の違法がある。

(二) 事実誤認

別紙命令書の理由欄、第一認定した事実のうち、2「八五春闘要求及び職場要求に関する団体交渉について」、3「過去における組合要求と病院の対応について」、第二判断のうち2「不当労働行為の成否」の各欄(以下、各欄の番号で表示する)において、以下の点につき、事実誤認及び事実の認定もれが存在し、本件命令の結論に重大な影響を及ぼす。

(1) 第一2(1)について

① 組合が、昭和六〇年(以下、同年の出来事については、昭和六〇年を省略する。)三月九日付けで提出した文書には、八五春闘要求書以外に、全日赤一九八五年春闘統一要求書、統一要求書、協力共同申入書がある。

② 八五春闘要求書の文書回答要求は、合計二四二項目(職場要求書の一〇〇項目を含めれば合計三四二項目)にも及ぶ膨大かつ複雑多岐にわたる諸要求に対し、要求項目ごとに具体的に回答を求めたものである。

③ 右三通の要求書及び協力共同申入書は、組合のほか、全日赤近畿地方協議会、大阪地方医療労働組合協議会、全日本赤十字労働組合連合会(以下「全日赤」という。)がそれぞれ連名で病院及び訴外日本赤十字社大阪府支部を名宛として提出された。

(2) 同(3)について

「組合は、三月一六日付け文書で、……団体交渉の開催を強く求めた。」ことはない。

(3) 同(5)について

組合の三月二二日付け文書では、病院の釈明申入れを、要求に対する中傷非難、要求無視の態度だとして抗議することに重点がおかれている。

(4) 同(6)について

① 三月二五日付け文書には、「労使関係の改善を望むなら」という表現はない。

② 本件紛争は昭和五七年夏期一時金についての紛争と深く関わっているのに、そのことを問題としておらず、本件紛争の歴史的背景事情を無視している。

(5) 同(7)について

組合は、八五春闘要求書のみではなく、三月九日付け要求書全部について団体交渉を申し入れた。

(6) 同(8)について

病院の四月五日付け文書による申入れは、前年までの文書回答を巡る交渉経緯や釈明申入れの具体的な目的と動機、回答の要求内容等を明らかにし、「一交渉当事者を錯誤しているもの、二労組法になじまないもの、三政治的なもの」など、病院に団交応諾義務のないものの一部を例示し、要求事項のどの事項が違法不当か具体的に指摘している。

(7) 同(10)について

病院の四月一〇日付け文書には「回答期限が過ぎた」との表現はない。右文書は、複数の労働組合が併存する場合における団体交渉のあり方等に関する病院の基本的見解を述べ、「今後の見通しもないまま全日赤大阪労組の都合で日本赤十字労働組合大阪赤十字病院支部に対する回答をこれ以上延ばすことはできない。」旨申し入れたものである。

(8) 同(11)について

① 病院の田中彰職員課長(以下「田中課長」という。)は組合の平沢久一執行委員長(以下「平沢委員長」という。)との間で四月一九日にも事務折衝をした。四月二〇日の事務折衝と他の日のそれとは、メンバーも意味内容も異なる。事務折衝は単に文書回答要求の取扱いのためだけではなく、当時の労使紛争の膠着状態の局面打開策をさぐるため行われた。

② 組合が「文書回答を求めた期日(四月一日)を過ぎているので、文書回答を求めない。」と述べた事実はない。四月一五日の田中課長と平沢委員長との折衝において、組合は、文書回答要求を文書で取り消すこと、要求書の要求項目については、形式的な病院側の指摘さえあれば指摘どおり団交事項(要求事項)を限定することの合意がなされたが、右合意は、同月二〇日、組合により一方的に破棄され履行されなかった。

(9) 同(12)について

① 五月一一日付け文書や五月一八日付け文書は組合機関紙の誤報問題、横断幕掲示、ステッカー添付等に関する紛争を中心内容とするものであって、本件団交問題とは意味が異なる。

② 四月一七日付け文書及び四月一九日付け文書とその他の文書とは、その紛争の局面が全く異なった時期に出されたものであって意味が全く異なる。

③ 四月一七日、四月一九日の各日付けの申入れに「回答期限の四月一日は過ぎたので、文書回答は求めない」旨の記載はない。

(10) 同(13)について

病院は、当初から一貫して三月一一日付けの病院の申入れ(以下「三・一一病院申入れ」という。)に固執したのではなく、前記田中及び平沢間の文書回答要求の取消合意が、組合によって一方的に破棄され、組合は文書回答要求を維持する結果に戻ったため、病院側も事実経過の変化に対応して、組合に対し、四月二三日付け文書(四月二五日付け、五月二日付け、五月八日付け、五月二〇日付け各文書も同旨)で、三・一一病院申入れに誠意ある回答をすみやかに行うよう申し入れたのである。

(11) 同(14)について

本件審問終結時までの間、団体交渉事項等をめぐる労使間の折衝は二〇数回にも及んで行われ、組合は実質上団体交渉を拒否した。

(12) 第一3について

病院は、日本赤十字社本社と全日赤の本部間において交渉すべき事項(以下「本社本部間交渉事項」という。)、患者住民要求、政治要求等は交渉事項でないと文書回答するとともに、団体交渉においても同様の回答を繰り返してきた。

(13) 第二2(2)について

① 病院は、四月五日付け申入れにおいて、「一交渉当事者を錯誤しているもの、二労組法になじまないもの、三政治的なもの」など、病院に団体交渉応諾義務のないものの一部を例示して、要求事項のどの事項が違法不当か具体的に指摘した。

② 組合が、文書による対応のみでなく、交渉、折衝において、具体的に問題点の整理と解決を図っていくべきであると申し入れたのは、真意ではない。

③ 病院は、平沢委員長のボス交の申入れに対しても誠実に対応しており、何等対応しなかったのではない。

(14) 同(3)について

病院は文書回答に固執してはいない。病院は組合が文書回答要求を明確に取り消すことを求めただけである。

(三) 誤った判断及び判断もれ

別紙命令書の理由欄、第二2において、以下のとおり、誤った判断及び判断もれが存在する。

(1) 同(3)について

病院側が組合に対し、三・一一病院申入れに誠意ある回答をすみやかに行うよう申し入れた経緯は前記のとおりである。

(2) 同(4)について

本件紛争においては、組合が八五春闘で要求した膨大かつ複雑多岐にわたる要求事項のうち、どの要求事項が真に団体交渉の対象にされるべきかが最大の争点であったから、どの事項が「整理されていない事項や交渉になじまない事項」であり、「組合員の労働条件に関する事項」であるのか、具体的に判断されるべきである。

(四) 団体交渉拒否の有無

(1) 本件の場合、病院において団体交渉を拒否した事実はなく、団体交渉を拒否しているのは組合である。

すなわち、組合は、本件紛争の真の争点が団体交渉事項にあることを充分知っており、労使が折衝、交渉を重ねた結果、政治的要求、患者住民要求が団体交渉事項から除外されることを極度に警戒し、団体交渉に入ること自体を拒否している。

組合は、団体交渉が行われないことをすべて病院の責任にして被告の救済命令を得、病院に無理やりいうことをきかせようとしている。組合が望んでいることは、救済命令を得ることであって、団体交渉を行うことではない。

(2) 病院は、要求の趣旨、理由、根拠及び正当性について説明がないことを理由に団体交渉を拒否していない。病院が、三月一一日付け文書で組合に対し、「各項目にわたるその要求の趣旨、理由、根拠並びに要求の正当性(均衡の原則、経済原則等)についての釈明」(以下右釈明事項を「要求の正当性等」という。)並びに「関連資料があればその添付」を申し入れたのは、組合の求めた、合計二四二項目(職場要求書の一〇〇項目も含めれば合計三四二項目)にも及ぶ膨大かつ複雑多岐にわたる諸要求に対する回答を行うためにしたものにすぎない。このことは何ら団体交渉そのものとは関係がないことである。

(五) 団体交渉権行使の正当性及び団体交渉拒否の正当理由

団体交渉拒否による不当労働行為が成立するためには、組合の団体交渉権の行使が「正当なもの」であること、また、使用者の団体交渉拒否に「正当な理由がないこと」が必要である(労働組合法七条二号)。

(1) 交渉要求主体

① 組合は、昭和六〇年三月九日、病院に対し、他の組織(全日赤近畿地方本部、大阪地方医療労働組合協議会、全日本赤十字労働組合連合会、日本医療労働組合協議会)と連名の、八五春闘要求書(この中には全日赤一九八四年度統一要求書の要求事項が含まれている。)、全日赤一九八五年春闘統一要求書、統一要求書、協力共同申入書を提出し、これらの要求書すべてについて団体交渉を要求した。更に、三月二九日、職場要求書を提出した。

② 団体交渉の当事者は使用者と、その雇用する労働者の代表者である。しかるに、各要求書に基づく要求には、組合のほか、病院が雇用する労働者の団体ではない全日赤近畿地方本部、大阪地方医療労働組合協議会、全日本赤十字労働組合連合会、日本医療労働組合協議会も加わっているから、組合の正当な団体交渉権の行使とはいえない。

③ 使用者たる病院は、組合に対し、右の点を明確にするため釈明を申し入れたが、組合は誠実に答えない態度をとった。右は労使間の信義則上の義務に反する。

(2) 団体交渉事項

不当労働行為が成立するためには、組合の要求した事項が労使間に関係する事項で、使用者に処分可能なものでなければならない。しかるに、組合の要求事項には、別紙のとおり、団体交渉事項でないもの、緊急に団体交渉をする必要のない事項が多数含まれている。団体交渉事項でない理由、緊急に団体交渉をする必要のない理由は以下のとおりである。

① 使用者に処分の権限のない事項

政治的要求が団体交渉事項でないことは明らかである。

② 病院に処分権限のない事項

原告においては、医療施設が全国九四ヶ所に及ぶため、労働協約一〇条、三条に基づき、ほとんどの労働条件が、本社本部間交渉事項となっている。したがって、全国的な問題である本社本部間交渉事項は、一施設たる病院が団体交渉で決定できるものではない。

③ 組合又は組合員にとつて利害関係のない事項

病院の管理運営事項並びに患者住民要求は、組合又は組合員にとって利害関係のない事項であり、病院に要求すべき事項ではない。

④ 要求そのものが抽象的で具体性のない事項

要求それ自体が抽象的で具体性がないため、それだけでは団体交渉事項たりえない。

⑤ 緊急に団体交渉をする必要のない事項

この一〇数年近く単に要求書に掲げられているが団体交渉の席で議題にのぼらなかった事項、他の要求書と整合せず、重複しているもの、過去に回答ずみであり数年近くこの回答を堅持しているものについては、緊急に団体交渉をする必要がない。

(3) 団体交渉の申入れ及びその後の態様

以下の事情により、組合の団体交渉権の行使は正当性を欠き、使用者の団体交渉拒否には、労働組合法七条二号の正当な理由が存する。

① 要求書の要求主体が複数かつ連名で、しかも労働組合法上他の団体は交渉当事者となりえない者であった。

② 要求事項の中には、政治的要求など使用者に処分権限のない事項、患者住民要求など組合及び組合員に関係のない事項、賃金問題など本社本部交渉事項であって病院に処分権限のない事項が含まれていた。

③ 要求そのものが膨大かつ複雑多岐にわたるのにかかわらず、短時間に要求項目ごとに具体的に文書で回答することまで要求されていた。

④ そこで、病院は組合に対し、要求の正当性等についての釈明を求めたが、当初、組合は病院を非難するのみで、何らこれに答えようとしなかった。

⑤ その後、田中・平沢折衡により一たんは組合が文書回答要求を取り消す旨の合意が成立したが、組合により一方的に破棄された。

⑥ その後は病院が団体交渉開催を申し入れたにもかかわらず、組合があえてこれを拒否し、第三者たる地方労働委員会の力を活用する戦術を選んだ。

(4) 病院の釈明申入れ

病院が、三月一一日病院申入れにより組合に対し、要求の正当性等についての釈明(以下「本件釈明」という。)を求めたのは、以下の理由によるものであり、正当な行為である。

① 組合は、従来から団交事項ではない政治的要求、患者住民要求、本社本部間交渉事項等について、団体交渉を求めてきたので、それらが団体交渉事項になる理由を問うために、本件釈明を求めた。

② 組合の三月九日付け団体交渉申入書の「要求書項目について、不明な点及び質問等があれば四月一日(又は団体交渉)までに当組合へ提出して下さい。」との文言、三月一六日付け書面の「私たちは交渉、折衝において不明な点の説明を求められるならば、具体的に対応していく用意はもっています。」との文言、三月二二日付けの書面の「春闘第一回団交までに不明な点での要求項目について説明を求められるならば、私たちは交渉、折衝に応じる用意があります。」との文言からして、組合は要求の正当性等を説明する旨述べているのであるから、病院が本件釈明を求めたことに何ら問題はない。

4  よって、原告は、本件命令の取消を求めるため本訴に及んだ次第である。

二  請求原因に対する認否及び主張

1  被告

(一) 請求原因1の事実は認めるが、同3の主張は争う。

(二) 本件命令の理由は、別紙命令書理由欄記載のとおりであり、被告の認定した事実及び判断に誤りはないから、本件命令は適法であり、原告主張の違法事由は存在しない。

(三)(1) 同3(一)(1)の主張について

本件救済申立書は八五春闘要求書及び三・二九職場要求書に関する団体交渉拒否について救済を求めていること、並びに本件命令書記載の認定した事実及び判断からして、本件命令の「申立人が昭和六〇年三月九日付け及び同四月六日付け文書で行った団体交渉申入れ」とは、右八五春闘要求書及び三・二九職場要求書各記載の要求事項についての団体交渉申入れであることは明らかである。

(2) 同3(一)(2)の主張について

救済命令において、いかなる救済を命じるかは労働委員会(公益委員会議)の自由裁量に委ねられ、制限はない。本件救済命令は、かかる自由裁量に基づき、公益委員会議において、必要かつ相当の範囲で命令を発したものであり、棄却部分はない。

2  補助参加人

(一)(1) 請求原因3(一)(1)の事実のうち、組合が原告主張の文書を提出したことは認めるが、本件命令に理由不備・理由齟齬の違法があるとの主張は争う。組合の本件救済命令申立は、八五春闘要求書と三・二九職場要求書に関してであるから、本件命令に理由不備・理由齟齬の違法はない。

(2) 同(2)の主張は争う。救済命令の救済内容は労働委員会の裁量に属するものであるから、本件命令に理由不備・理由齟齬の違法はない。

(二) 同(二)の主張は争う。労働委員会は、その命令書において、判断に必要な限度において事実認定を行い、理由に記載すれば充分である。そもそも原告の主張の多くは、原告が事実誤認等と主張する事項が、何故に本件命令を違法ならしめるのか何ら具体的な主張がなく、主張自体失当である。ひっきょう。原告の主張は本件の争点とは関係がない事実を認定しなかったにことを非難し、また、理由中の片言隻語をとらえて、事実誤認でもないことを誤認と主張したり、文書に記載されている内容についてどの事項に力点を置くかの違いをいうに過ぎない。

(三) 同(四)の事実は否認する。病院は組合に対し、要求の正当性等を説明した文書及びこれを裏付ける関連資料の提出を求め、組合がこれに従わないことを口実として、一貫して団体交渉を拒否し続けた。

(四) 同(五)の主張について

本件事件の唯一の争点は、病院が組合に対し、要求の正当性等を説明した文書及びこれを裏付ける関連資料の提出を求め、それがなされていないことを理由に、団体交渉を拒否できるか否かということであり、原告の前記主張(五)は、被告の審理中には何ら問題にならなかった事項である。

(1) 同(五)(1)の主張は争う。組合が団体交渉の当事者であることは明らかである。しかるに、病院は組合に対しても団体交渉に応じていない。また、例年他の団体が名を連ねた同様の要求書が出され、団体交渉が開催されてきたのであるから、組合以外の団体が要求書に名を連ねたからといって組合との団体交渉が阻害される理由にならない。

(2) 同(2)の主張は争う。

① 従来病院は、団体交渉にあたって今回と同様の要求書の提出を受けながら、釈明を求めることなく団体交渉を行ってきたし、それで何ら支障が生じていない。

② 原告は、組合の要求に団体交渉事項ではないもの、緊急に団体交渉をする必要のない事項が多数含まれていると主張するが、失当である。

労働組合は労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的としながら、政治的、社会的、文化的地位の向上をも目的として活動するものであり、右目的に寄与する広範な事項について、団体交渉を求めうる。

本件組合員は、医療に従事する労働者であり、その労務の提供が患者に対する治療行為と密接に結び付いていることから、病院の施設や設備など医療環境の改善を求めることと、労働条件の向上を求めることと相互に関連し合っており、いわゆる医療改善要求について団体交渉を求めうることは当然である。

八五春闘要求書及び三・二九職場要求書による組合の要求の大部分は、組合員の切実な要求や山積みする諸問題の緊急の解決を求めたものである。

(3) 同(3)冒頭の主張は争う。

① 同(3)①の事実のうち、要求書の要求主体が複数かつ連名であったことは認めるが、その余は争う。組合が団体交渉当事者であることは明らかである。

② 同②は争う。組合の要求の大部分は団体交渉事項であり、緊急に団体交渉を要する事項である。

③ 同③の事実は団体交渉拒否の理由にならない。組合は、例年と同様、団体交渉の能率化のために文書回答を求めているに過ぎず、右文書回答を団体交渉の前提条件としてはいない。

④ 同④の事実のうち、病院が要求書に対する釈明を組合に求めたことは認めるが、その目的は否認する。病院は団体交渉拒否の口実のため本件釈明を申し入れたものである。

⑤ 同⑤の事実は否認する。組合は、四月一日の団体交渉要求期日が経過したので、団体交渉の早期開催のため譲歩し、病院に対する文書回答要求にはこだわらないという態度をとったものである。

⑥ 同⑥は争う。病院は、組合において、本件釈明要求に応じない限り、一切団体交渉に応じないとする態度をとったため団体交渉が開催されなかったのである。

(4) 同(4)冒頭の主張は争う。

① 同(4)①の事実は否認する。病院は団交拒否の口実のため本件釈明を申し入れたものであり、このことは以下の事実から明らかである。

ア 病院と組合とは、これまでに多数回にわたり団体交渉を行ってきたが、団体交渉以前に病院から、要求の正当性等についての釈明を求められたことはないし、組合が団体交渉以前に一つ一つ説明したこともなかった。このようなことがなくても、団体交渉において何ら支障は生じなかった。

イ 組合の八五春闘要求書の要求項目は、内容的にも項目数においても例年とほとんど違いがなく、要求の趣旨等の説明を受けなければ団体交渉に応じられないということは考えられない。

ウ 病院の本件釈明は何ら具体性がなく、包括的に要求の正当性等について回答を求めているものである。

エ 組合は病院に対し、要求項目について不明な点を具体的に明らかにして質問するなら。そのための交渉、折衝をもってもよいと申し入れたにもかかわらず、病院は最後まで具体的な質問をしなかった。

② 同(4)②の事実のうち、各書面に原告主張の文書があることは認めるが、その余の事実は否認する。右は、要求内容が不明な場合、その具体的指摘があればその説明をするという趣旨である。

第三  証拠〈省略〉

理由

一請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二〈証拠〉によれば、病院は原告の経営する医療施設の一つに過ぎず、独立の法人格を有するものでないことが認められる。労働組合法二七条の規定による救済命令の名宛人とされる使用者は、法律上独立した権利義務の帰属主体であることを要するものであるところ、法人組織の構成部分を名宛人とする救済命令は、実質的には右構成部分を含む法人を名宛人として、これに対し命令の内容を実現することを義務付ける趣旨のものと解するのが相当である。したがって、本件命令は表示上病院を名宛人としているが、実質的には原告を名宛人とし、これに対し命令の内容を実現することを義務付ける趣旨のものと解されるから、原告は本件命令の取消を求める法律上の利益を有するというべきである。

三本件命令の基礎となった事実関係につき検討する。〈証拠〉を総合すれば、以下のとおり認定することができ、この認定に反する〈証拠〉は採用しない。

1  病院は、原告が大阪市天王寺区において経営する医療施設であり、組合は病院に勤務する職員で組織する労働組合である。組合は、原告が経営する全国の医療機関の職員で組織する労働組合の連合体である全日赤に加盟している。

2  組合は病院に対し、三月九日、主に賃上げ、勤務条件改善など多項目に及ぶ八五春闘要求書、全日赤一九八五年春闘統一要求書、統一要求書を提出するとともに、同日付け文書で、四月一日までに右各要求書項目及び未解決要求の継続課題について、団体交渉を行うよう申し入れた(以下「三・九団体交渉申入書」という。)組合は、このとき協力共同申入書も提出した。八五春闘要求書には全日赤近畿地方協議会と大阪地方医療労働組合協議会が、全日赤一九八五年春闘統一要求書には右二者に加え全日赤が、統一要求書には大阪地方医療労働組合協議会が、要求書として組合と名を連ねており、協力共同申入書には全日赤及び日本医療労働組合協議会が申入者として組合と名を連ねていた。

3  組合は病院に対し、右統一要求書の一部の要求事項については三月一八日までに、同要求書のその余の事項並びに他の二通の要求書の要求事項については四月一日までに文書で回答することを要求した(以下「文書回答要求」という。)。

三・九団体交渉申入書には、「要求書項目について不明な点及び質問等があれば、四月一日(または団体交渉)までに当組合へ提出して下さい。」との記載がなされていた。

4  病院は組合に対し、三・一一病院申入れにおいて、八五春闘要求書について文書回答要求に答えるにあたり、その前提として、要求の趣旨、理由、根拠ならびに正当性(均衡の原則、経済原則)等の事情を了知しておく必要があるとして、これを裏付ける関連資料等も添付したうえ、三月一六日までに文書で回答するよう求めた。均衡の原則とは、他の病院との比較を意味し、経済原則とは要求と病院の経済状態との関係を意味するものであった。

5  これに対し、組合は、三月一六日付け文書で、三・一一病院申入れを非難するとともに、要求書の中で不明な点があれば、どの事項なのか具体的に明らかにすべきこと。組合としては交渉、折衝において不明な点の説明を求められるならば、具体的に対応していく用意であることを述べ、右病院申入れが団体交渉の引き延ばしの口実にならないよう求めた。

6  病院は、組合に対し三月一八日付け文書で、①組合の要求は約一一〇数項目に及ぶ膨大なものであり、しかも著しく整合性を欠き不適切なものであると述べるとともに、このような膨大な要求項目に回答するには、三・一一病院申入れに沿った要求の正当性等の説明が必要不可欠の前提条件であること、②また、三・九団体交渉申入書に前記記載があることからして、三・一一病院申入れの趣旨に沿う回答を三月二二日までに文書で提出するよう再度申し入れた。

7  そこで、組合は、三月二二日付け文書で病院に対し、病院の対応は、要求に対する非難中傷であり、要求無視の態度であると非難するとともに、要求項目の不明な点について説明の交渉、折衡に応じる用意がある旨述べ、いたずらに文書交換を避け、交渉をもって問題点の整理と解決を図るよう申し入れるとともに全日赤が作成した「全日赤八五賃上げ要求の説明」と題する書面を提出した。

8  病院は、三月二五日付け文書で、三月二二日付け組合の申入れは、病院の要求に関し何ら具体的な回答になっていないので、不信感をつのらせていると述べるとともに、三・一一病院申入れの趣旨に沿った回答を文書で提出するよう更に申し入れた。

9  組合は病院に対し、三月二九日付け文書で、病院の行った再三の申入れは、三・九団体交渉申入書文言をとらえて、問題をすり替え、組合の意向を意図的に歪曲し、団体交渉を回避するためのものであると述べ、速やに団体交渉を開催するよう申し入れ、また、同日付けで、看護婦の増員、施設改善など各職場ごとの要求を、職場要求書(以下「三・二九職場要求書」という。)として提出した。

10  病院は、組合に対する四月五日付け文書で、三月二九日に組合が提出した申入書は、病院の求めているものではない旨述べるとともに、組合の要求事項の中には、交渉当事者を錯誤しているもの、病院側に処分権限がないもの、内容からみて政治的信条やイデオロギー的性格を帯びたものがあるとして、その一部を具体的に例示したうえ、要求書を整理して再提出するよう求めるとともに、組合が病院の申入れの趣旨に沿った対応をすれば、団体交渉の具体的な事務手続について話合う用意がある旨申し入れた(以下「四・五病院申入れ」という。)。

11  組合は、四月六日付け文書で、病院は組合が要求した団体交渉の開催及び要求事項に対する文書回答のいずれも行っていないので、早期に(四月一〇日までに)、三・二九職場要求書項目も含めて団体交渉を行うよう申し入れた。

12  病院は、四月一〇日付け文書で、組合が病院の文書回答に先立つ必要要件(要求の正当性等説明文書の提出)を整備しないため、文書回答ができず、その結果、団体交渉が開かれていない状況にあるとして、

(一)  団体交渉開催の事務手続に入るため四・五病院申入れの趣旨に沿って、要求書を整理して再提出すること

(二)  また、現時点でも文書回答を求めているならば、三・一一病院申入れの趣旨に沿う要求の正当性等説明文書を提出すること

を求めるとともに、日本赤十字労働組合大阪赤十字病院支部と具体的な事務手続に入り団体交渉を行う旨述べた。

13  組合は、団体交渉の早期開催を求めるとの立場から、局面打開のため、病院側に話合いを申し入れ、四月一五日、一九日、二〇日に組合と病院との間で折衝が行われた。一五日の交渉において、病院側から、組合の文書回答要求を文書で取り消すこと及び団体交渉になじまない要求事項を整理すべきであるとの申入れがあり、組合側は、文書回答要求の取消はできないが、団体交渉が開かれるのなら、その点につき何らかの対応策を考えていること、重複する要求事項については整理する旨回答した。

14  組合は、右回答の趣旨に沿い、四月一七日付け文書で、文書回答に固執するものでなく、早期に団体交渉を開催するよう申し入れる旨述べたが、病院側は四月一八日付け文書で、この表現では文書回答要求が消滅したことにはならないと述べたので、組合は同月一九日付け文書で、八五春闘要求書の文書回答要求を撤回し、重ねて団体交渉を申し入れたが、病院側は、組合の松永副委員長の発言に不審な点があるとして文書回答要求を明確に取り消すことを求めた。

15  組合は病院に対し、四月二四日、四月三〇日、五月七日、五月一〇日、五月一三日、五月一八日の各日付け文書で、何ら条件をつけず直ちに団体交渉に応じるよう繰り返し申し入れた。なお、組合は右五月七日付け文書で、職場要求についても組合からの説明文書の提出を前提条件として団体交渉を拒否していることは全く筋違いであり、職場要求について団体交渉を行うことは何ら支障がない旨述べた。

16  これに対し、病院は、四月二三日、四月二五日、五月二日、五月八日、五月一四日、五月二〇日の各日付け文書で、三・一一病院申入れの趣旨に沿う要求の正当性等の説明があり次第団体交渉に応じる旨繰り返した。なお、四月二五日、五月二日、五月八日、五月一四日の各日付け文書には、三・二九職場要求書についても同様の態様を求める旨の記載がなされていた。

17  組合は、五月二四日、被告に対し、八五春闘要求書及び三・二九職場要求書の要求事項に関する病院側の団体交渉拒否について、不当労働行為救済申立をした。

18  本件命令発令時においても、八五春闘要求書及び三・二九職場要求書について組合と病院との間で団体交渉は行われていない。

19  組合は、昭和四七年以降、要求事項について団体交渉までに文書で回答するよう要求するとともに、団体交渉の開催を求めてきたのに対し、病院はこれに応じてきた。

20  昭和五九年三月一五日付け八四春闘要求書の要求事項は、八五春闘要求書とほぼ同数で同内容となっているが、病院は、同年四月五日付けで要求事項について文書回答するとともに団体交渉に応じている。なお、その際、団体交渉事項でないとするものについては、その旨回答している。

以上の認定に照らせば病院が、組合の団体交渉の申入れに対し、要求の正当性等の説明を求め、その回答がないことを理由として、団体交渉を拒否していることは明らかであるから、右団体交渉拒否の理由が、労働組合法七条二号の正当な理由に該当しない限り、病院の右団体交渉拒否は不当労働行為であるというべきである。

四原告が団体交渉拒否の正当理由に関し主張する事項について検討する(団体交渉権行使の正当性は団体交渉拒否の正当理由の判断の中で検討すれば足りる)。

1  交渉要求主体(請求原因3(五)(1)の主張)について

組合は、昭和六〇年三月九日、病院に対し、八五春闘要求書、全日赤一九八五年春闘統一要求書、統一要求書並びに協力共同申入書を提出したこと、八五春闘要求書には全日赤近畿地方協議会と大阪地方医療労働組合協議会が、全日赤一九八五年春闘統一要求書には右二者に加え全日赤が、統一要求書には大阪地方医療労働組合協議会が要求書として組合と名を連ねており、協力共同申入書には全日赤及び日本医療労働組合協議会が申入書として組合と名を連ねていたことは前認定のとおりであるが、右三通の要求書について病院に団体交渉を申し入れたのは組合であること、これに対し、病院が要求の正当性等の文書回答を求めた相手方も組合であることは前認定のとおりであり、これらの事実からして、団体交渉の相手方が組合であることに疑問の余地はなく、右要求書に組合以外の者が要求者として名を連ねていたことは、団体交渉拒否の正当な理由とはならない。

2  団体交渉事項(請求原因3(五)(2)の主張)について

〈証拠〉によれば、八五春闘要求書及び三・二九職場要求書の要求事項には、一部整理されていない事項や団体交渉になじまない事項が存在するが、多くは組合員の労働条件に関する事項であって、団体交渉事項であると認められる。なお、三・一一病院申入れは、病院が団体交渉の対象とならないとする事項について、右対象とする理由の説明を求めたものとは解されないことは後述のとおりである。

3  団体交渉申入れ及びその後の態様(請求原因3(五)(3)の主張)について

(一)  請求原因3(五)(3)の①及び②の主張については、前記検討のとおりである。

(二)  組合は、四月一七日付け文書で、文書回答に固執するものでなく早期に団体交渉を開催するよう申入れ、同月一九日付け文書で、八五春闘要求書の文書回答要求を撤回したことは前認定のとおりであり、右事実並びに〈証拠〉によれば、組合は、団体交渉の時間が病院により制限されているため、交渉を実りのあるものにする目的で、病院に対し右文書回答を求めたものであり、病院の文書回答が団体交渉開催の前提条件であるとの趣旨ではないことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。したがって、病院は、文書回答を求められたからといって、三・一一病院申入れに組合が応じなければ文書回答の準備ができないことを理由として、団体交渉を拒否することはできないというべきであるから同③及び④の主張は理由がない。

(三)  同⑤の事実が認められないことは、前認定のとおりである。

(四)  同⑥の事実については、病院は、三・一一病院申入れの趣旨に沿う要求の正当性等の説明がありしだい団体交渉に応じる旨繰り返したこと、組合は、昭和六〇年五月二四日付けで、地方労働委員会に対し不当労働行為救済の申立をしたことは、前認定のとおりであるが、地方労働委員会に対し不当労働行為救済の申立をすることは、法律上認められた権利であり、右各事実は団体交渉拒否の正当な理由とはいえない。

以上検討のとおり、団体交渉の申入れ及びその後の態様において、団体交渉拒否の正当な理由は認められない。

4  病院の釈明申入れ(請求原因3(五)(4)の主張)について

(一)  原告は、病院が組合に対し、政治的要求、患者住民要求、本社本部間交渉事項を団体交渉事項とする理由を問うために本件釈明の申入れをしたと主張し、証人田中彰はそれに沿う証言をするが、以下の理由により、右証言は採用できず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

(1) 三・一一病院申入れ自体の内容からして、団体交渉事項か否かについての釈明とは解されない。団体交渉事項についての釈明であるならば、その旨端的に述べれば足りることである。

(2) 病院は、組合の要求事項について文書回答する前提として、要求の正当性等の説明が必要であると述べていることは前認定のとおりであるが、病院において、右事項が団体交渉事項でないと考えているのであれば、組合に文書回答を求める必要性はなく、その旨を伝えれば足りる。

(3) 病院側が単に団体交渉事項か否かの解答を求めているのなら、要求の趣旨、理由、根拠、並びに要求の正当性(均衡の原則、経済原則等)という多数の事項について文書回答を求める必要性は認め難い。

(4) 〈証拠〉によれば、田中彰証人は、労働委員会における審問の主尋問では、本件釈明を申し入れた理由について、右原告主張のようには証言していないことが認められる。

(二)  〈証拠〉によれば、三月九日付け、三月一六日付け、三月二二日付け各書面に、原告主張の文言が記載されているが、〈証拠〉によれば、右は、組合の要求事項について、字句や内容が不明であればその説明をするという趣旨であり、要求の正当性等要求の根幹にかかわるすべてについて回答するというものではないことが認められる。右三月九日付け文書の記載内容が、原告主張のように、要求の正当性等について回答に応ずる趣旨と解する余地があるとしても、前認定のとおり、組合は、三月一六日付け、三月二二日付け、三月二九日付け各文書において、右三月九日付け文書に対する病院の理解の仕方を非難しているのであるから、病院がそれ以降も右理解を変えないのは、組合の意向を曲解したものというべきである。

以上のように、いずれもその前提となる事実が認められないので、原告の主張は失当である。

5 以上検討のとおり、原告の主張する団体交渉拒否の理由は、いずれも労働組合法七条二号の正当な理由に該当せず、他に右正当な理由を窺わせる事情も認められないから、病院が要求の正当性等についての説明がないことを理由として団体交渉を拒否していることは、不当労働行為である。

五理由不備・理由齟齬(請求原因3(一))について

1  組合は、八五春闘要求書及び三・二九職場要求書に関する団体交渉拒否に対し、不当労働行為の救済申立をしたことは、前認定のとおりであり、本件命令は右申立について判断したものであるから、本件命令主文の「昭和六〇年三月九日付け及び同四月六日付け文書で行った団体交渉申入れ」とは、右八五春闘要求書及び三・二九職場要求書に関する団体交渉申入れであることは、明らかであり、理由不備・理由齟齬の違法はない。

2  前掲乙第一号証によれば、組合は本件救済申立書において「要求項目の一部が団体交渉になじまないことを口実として団体交渉全体を拒否してはならない。」旨の請求する救済の内容を掲げていたことが認められ、本件命令は右内容を主文に掲げていないが、本件命令は病院が組合に要求の正当性等の説明文書の提出を求め、これを理由として団体交渉に応じていないと認定するとともに、かかる病院の行為は労働組合法七条二号に該当する不当労働行為であると判断しているものであるが、右認定及び判断が正当であることは、これまでに説示してきたところであり、労働委員会は、右認定及び判断から救済の方法としてどのような主文を掲げるかについて、広範な裁量権を有しており、その主文にした理由を明らかにしなくとも理由不備や理由齟齬による違法の問題は生じなないと解されるし、本件命令の主文について右裁量権の範囲を逸脱又は濫用したとの事情は窺われない。

六以上認定、説示したとおり、本件命令には取り消すべき違法事由は存在しないのであるから、原告の本訴請求は、これを棄却することとし、訴訟費用(参加によって生じた費用を含む。)の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九四条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官蒲原範明 裁判官土屋哲夫 裁判官大竹昭彦)

別紙命令書

申立人 大阪赤十字病院労働組合

代表者執行委員長 吉田一江

被申立人 大阪赤十字病院

代表者院長 二本杉皎

主文

被申立人は、申立人が昭和六〇年三月九日付け及び同四月六日付け文書で行った団体交渉申入れについて、要求の趣旨、理由、根拠及び要求の正当性について説明がないことを理由に団体交渉を拒否してはならない。

理由

第一 認定した事実

1 当事者等

(1) 被申立人大阪赤十字病院(以下「病院」という)は、日本赤十字社(以下「日赤本社」という)が肩書地において経営する医療機関であり、その従業員は本件審問終結時約一、二〇〇名である。

(2) 申立人大阪赤十字病院労働組合(以下「組合」という)は、病院に勤務する職員で組織する労働組合であり、その組合員は本件審問終結時約四二〇名である。なお、組合は、日赤本社が経営する全国の医療機関の職員で組織する労働組合の連合団体である全日本赤十字労働組合連合会(以下「全日赤」という)に加盟している。

(3) また、病院には、組合とは別に、病院の職員で組織する日本赤十字労働組合大阪赤十字病院支部があり、その組合員は本件審問終結時約一六〇名である。

2 '85春闘要求及び職場要求に関する団体交渉について

(1) 昭和六〇年三月九日、組合は、主に賃上げ、勤務条件改善など多項目におよぶ'85春闘要求書(以下「'85春闘要求書」という)を提出するとともに、同日付け文書で、四月一日までに団体交渉を行うよう病院に申し入れた(以下「三・九団交申入書」という。)。

なお、「'85春闘要求書」では「四月一日までに要求事項について文書で回答すること」を要求しており(以下「文書回答要求」という)、また、「三・九団交申入書」には「要求事項について不明な点及び質問等があれば、四月一日までに組合へ提出して下さい」との記載がなされていた。

(2) 病院は、三月一一日付け文書で、要求事項に文書回答するに当り、その前提として、要求の趣旨、理由、根拠並びに要求の正当性(以下「要求の正当性等」という)の事情を了知しておく必要があるとして、これらを裏付ける関連資料も添付したうえ、三月一六日までに文書で回答するよう求めた(以下「三・一一病院申入れ」という)。

(3) これに対し、組合は、三月一六日付け文書で、要求書の中の不明な点があれば、病院側は、どの事項なのか具体的に明らかにすべきであること、また、文書による対応によるのではなく、交渉、折衝において具体的に問題点の整理と解決を図っていくべきである旨述べるとともに団体交渉の開催を強く求めた。

(4) 病院は、三月一八日付け文書で、①組合の要求事項は膨大なものであり、しかも著しく整合性を欠き不適切なものである旨述べるとともに、このような要求事項に回答するには「三・一一病院申入れ」に沿った要求の正当性等の説明が必要不可欠な前提条件であること②また「三・九団交申入書」からすれば、組合は病院からの申入れに対応する用意があることからして、病院の申入れの趣旨に沿う回答を三月二二日までに文書で提出するよう申し入れた。

(5) 組合は、三月二二日付け文書で、いたずらに文書論争にのみ力点をおくことなく、交渉をもって問題点の整理と解決を図るよう再度申入れるとともに全日赤が作成した「全日赤'85賃上げ要求の説明」と題する文書を提出した。

(6) 病院は、三月二五日付け文書で、三月二二日付け組合の申入れは、病院の要求に対し何ら具体的な回答になっていないので、労使関係の改善を望むなら「三・一一病院申入れ」の趣旨に沿った回答を文書で提出するよう申し入れた。

(7) 組合は、三月二九日付け文書で「'85春闘要求書」について問題解決のため、速やかに団体交渉を開催するよう申し入れるとともに、三月二二日付申入れと同趣旨の内容を繰り返した。

また、同日付けで、看護婦の増員、施設改善など各職場ごとの要求を、職場要求書(以下「三・二九職場要求書」という)として提出した。

(8) 病院は、四月五日付け文書で『組合の「'85春闘要求書」の要求事項には、交渉当事者を錯誤しているもの、病院に処分権限がないもの、内容からみて政治的信条やイデオロギー的性格を帯びたもの等が含まれており、要求書は不当なものとなっているので、要求書を整理して文書で再提出するよう求めるとともに、組合が病院の申入れの趣旨に沿った対応をすれば、団体交渉の具体的な事務手続について話合う用意がある』旨申し入れた(以下「四・五病院申入れ」という)。

(9) 組合は、四月六日付け文書で、病院は組合が要求した団体交渉の開催(予定日四月一日)及び要求事項に対する文書回答のいずれも行っていない。問題解決のため、早期に(四月一〇日までに)、職場要求も含め団体交渉を行うよう申し入れた。

(10) 病院は、四月一〇日付け文書で、組合が病院の文書回答に先立っての必要条件(要求の正当性等説明文書の提出)を整備しないため、文書回答ができず、その結果、団体交渉が開かれない状況にあるとして、

① 団体交渉開催の事務手続に入るため「四・五病院申入れ」の趣旨に沿って、要求書を整理して再提出すること

② また、回答期限が過ぎた現時点でも文書回答を求めているならば、要求事項について文書回答するので「三・一一病院申入れ」の趣旨に沿う要求の正当性等説明文書を提出すること

を求めた。

(11) 四月一五日、四月二〇日の両日、組合と病院の間で、文書回答要求の取り扱いについて事務折衝が持たれた。

その席上で、組合が、文書回答を求めた期日(四月一日)を過ぎているので、文書回答を求めないと述べたのに対し、病院は、要求書から文書回答要求の項を削除しなければ、文書回答を求めていないことにはならないと述べたため、双方の言い分は平行線のまま合意には至らなかった。

(12) 組合は、四月一七日、四月一九日、四月二四日、四月三〇日、五月七日、五月一〇日、五月一三日、五月一八日の各日付け文書で、「'85春闘要求書」及び「三・二九職場要求書」について、直ちに団体交渉に応じるよう繰り返し申し入れた。

なお、四月一七日、四月一九日の各日付けの申入れには、回答期限の四月一日は過ぎたので、文書回答は求めない旨の記載がなされていた。

(13) これに対し、病院は、四月一八日、四月二三日、四月二五日、五月二日、五月八日、五月一四日、五月二〇日の各日付け文書で、「三・一一病院申入れ」の趣旨に沿う要求の正当性等の説明がありしだい団体交渉に応じる旨繰り返した。

なお、四月二五日付け申入れには「三・二九職場要求書」についても同様の対応を求める旨の記載がなされていた。

(14) 本件審問終結時において「'85春闘要求書」及び「三・二九職場要求書」について組合と病院との間で団体交渉は行われていない。

3 過去における組合要求と病院の対応について

組合は、四七年以降、要求事項について団体交渉開催までに文書で回答するよう要求するとともに、団体交渉の開催を求めてきたのに対し、病院は、これに応じてきた。

なお、五九年三月一五日付け「'84春闘要求書」の要求事項は、「'85春闘要求書」とほぼ同数で同内容となっているが、これに対し、病院は、同年四月五日付けで要求事項について文書回答するとともに団体交渉に応じている。

第二 判断

1 当事者の主張要旨

(1) 組合は、病院は「'85春闘要求書」及び「三・二九職場要求書」の要求事項について「要求の正当性等」を説明した文書等の提出を団体交渉開催の前提条件とし、それらの提出がないことを理由に団体交渉を拒否していると主張する。

(2) これに対し、病院は、組合の要求は膨大かつ複雑多岐にわたり、整理されておらず、しかも、組合の要求事項には、病院に処分権限のないもの、組合にとって利害関係のないもの、政治的信条を前提としたもの等要求として不当なものが多く含まれているので、組合の「三・九団交申入書」の趣旨に沿って要求事項について説明を求めているにすぎず、団体交渉に前提条件を付し、団体交渉を拒否しているものではない旨主張する。

よって、以下判断する。

2 不当労働行為の成否

(1) 組合が「'85春闘要求書」及び「三・二九職場要求書」について団体交渉の開催を要求しているのに対し、病院が本件審問終結時現在、未だ、これに応じていないのは前記第一、2、(14)認定のとおりである。

(2) 前記認定第一、2、(2)、(3)、(4)、(6)、(8)、(10)によれば、病院は組合の要求事項について説明を求めていると述べてはいるものの、要求事項のどの事項が不明なのか具体的な指摘はしていない。

また、組合が、文書による応対のみでなく、交渉、折衝において、具体的に問題点の整理と解決を図っていくべきであると申し入れているのに対し、何等対応することなく、文書により、要求の正当性等の説明を求めた「三・一一病院申入れ」の履行を繰り返し求めることに終始していることが認められる。

(3) そのうえ、前記認定第一、2、(12)のとおり組合は、四月一日以降は文書回答を求めていないにもかかわらず、病院が文書回答に固執することに理由があるとは認められない。

(4) また、組合の要求事項の一部には、整理されていない事項や交渉になじまないのではないかと思われる事項をみうけられるが、多くは組合員の労働条件に関するものであると認められる。

(5) さらに、前記認定第一、3のとおり、組合は」、四七年の要求から前年の五九年春闘要求に至るまで、本件要求書と同内容、同形式の要求書を提出しており、これに対し、病院は、文書で回答するとともに団体交渉に応じてきたことが認められ、かかる経緯からみれば、病院が本件において、組合に求めている要求の正当性等の説明文書の提出が団体交渉に際して必要不可欠なものとは認められない。

(6) 以上のことからみれば

病院が「三・九団交申入書」に「不明な点、質問等があれば提出するよう」記載があるのをもって、組合からの要求の正当性等の説明文書の提出を求め、これに固執し、「'85春闘要求書」及び「三・二九職場要求書」に関して団体交渉に応じていないのは、正当な理由もなく、組合との団体交渉を拒否したものと判断するのが相当であって、かかる病院の行為は、労働組合法第七条第二号に該当する不当労働行為である。

以上の事実認定及び判断に基づき、当委員会は、労働組合法第二七条及び労働委員会規則第四三条により、主文のとおり命令する。

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